「第2次キャンプブーム」と呼ばれるなか、茨城県北の地域振興関連の事業に携わり、まもなく2年10カ月。
日立市の地域ブランド「中里のぶどう・りんご」「茂宮かぼちゃ」等とは異なり、Uターンし、地元で情報のアンテナを張っていたからこそ、気づいた地域資源もありました。そのひとつが、高萩市西部の花貫渓谷に自生するダイモンジソウです。
涼しく湿った環境を好むダイモンジソウは、全国の山野・岩場等に広く分布しています。ゆえに、自然のままに生息しているものであっても、品種を問わなければ、特段珍しい植物とは言えません。けれども、園芸植物として人気のダイモンジソウが、観光名所の清流沿いに自生し、かつ花崗岩の割れ目に応じた複雑な地形の渓谷に群生している点に、観光客の誘客の可能性を感じています。
もちろん、例年10月にここで咲くダイモンジソウは知る人ぞ知る植物で、地元団体によりすでに関連イベントも行われてきました。例えば、NPO法人里山文化ネットワークさんによって、7年半前(2016年10月)に観察会が開催され、以後自治体との共催等、回を重ねるごとに、高萩市内の「植生マップ」も改良されてきたことが挙げられます。
もし、花貫渓谷におけるダイモンジソウの花の見頃が、同じエリアのカエデ等の紅葉の見頃と1週間でも重なっていたら、また県央のひたちなか海浜公園のコキアや、各地で親しまれてきた県花・バラの秋の見頃とは逆に重なっていなければ、おそらく今より話題になっていたはずです。
ひたちなか海浜公園におけるコキアは試験植栽を経て、2007年から一般公開がスタートしました。公園内「みはらしの丘」では従来コスモスが一面に広がっていましたが、現在は10月中旬頃からコキアとコスモスの花がきれいに色づき、10月中は外国人客を含む入園者でにぎわいます(ちなみに、新型コロナ流行前の2018年度の月間入園者数は、延べ約44万人)。
花貫渓谷のダイモンジソウは草丈が低く、花も小さいために目立たないものの、汐見滝、小滝沢キャンプ場、名馬里ヶ淵の周辺等にひっそりと群生しています。昨年9月上旬の大雨(台風13号に伴う豪雨)による被害が心配されましたが、翌月17日、掲載写真のように依然ダイモンジソウが力強く息づき、美しい花を咲かせていました。
昨年6月に報道されたように、高萩市は『花貫渓谷利活用・整備構想』を策定しました。この政策文書によると、同渓谷エリアでは年間を通じた集客の実現、並びに滞在時間の増加と経済効果をもたらす仕組みづくり等を目指し、ハード面については親水・展望・飲食施設の設置等が計画されています。
加えて、茨城県の事業として花貫渓谷から土岳、竪破山へ抜け、常陸太田市里美地区の温泉旅館等が所在する南部を通り、日立中里フルーツ街道・御岩山へと続く道は、「常陸国ロングトレイル」として整備されています。このうち、竪破山においては「太刀割石」という、ユニークな形をした花崗岩の巨石を見ることができます。さらに、10月といえば、高萩市では特産の食用ほおずき(「高萩ほおずき」「花貫フルーツほおずき」)、日立市中里地区ではぶどう・りんごが実り、収穫される時期にあたります。
茨城県北地方に点在し、周遊型観光の魅力を高めゆく自然・歴史・文化資源の数々。同じ地域資源にほかならない地元住民の方々との交流を通じて、今後も新たな出合いと感動が待っていますように。